2023/11/15(本編)

俺は今日は外に出ようと決心して昨日から準備を進めていた。まず部屋の整理をした。自分の部屋が散らかっていてどうしようもないので、それを綺麗にするための準備。部屋が綺麗になったら、自分のやりたいことが浮き上がってくるのではないのかしら、というあまり根拠のない理由だった。その後本棚を整理した。本棚は買い足そうと思っている。これを書き上げたらニトリのサイトでも見てみよう。そしたら大量の借りっ放しの本が出てくる。図書館の期限切れの本が七冊、サークルの部屋から借りた漫画がいくつか。これらをいつものトートバッグにまとめ、適当な袋にハイライトとライター(酔っ払った勢いで買ってしまった!最近毎日のように酒を摂取している。酒がないと人と喋れない)、財布、買ったものの履いていなかったディッキーズのチノと、誰のかわからないがクローゼットに一年以上あるスウェットを準備して寝た。

 

翌朝、俺は十一時に起きた。いつも六時くらいに起きていた俺にとっては、かなり狂っている状態にある。二日酔いの時だって、とっくに起きて全てを呪いながら大量の水を飲んでいる時間だ。親が残していてくれたパンと、牛乳を突っ込んだリプトンを腹にぶち込み、映画のソラニンの続きの一番いい部分を見た後、俺は家を出た。

大学までは荷物が重くて移動で精一杯だった。聞いていた音楽はポストロックのアーティストが幾つかとソラニン。家を出る途中、駅までの道で帽子が落ちていた。誰かがご丁寧に目のつくところに引っ掛けていたが、まあ元の持ち主が取りにくることもないだろうし、なんだが被ってみたくなって、もらっていくことにした。俺が被るとサブカルバンドのボーカルみたいだ。フィッシュマンズ、アート・スクール、フジファブリック。なんでもいいのだが、なんだかその辺の人たちのようになって嬉しかった。それか詐欺で捕まって連行されている大学生。


大学で本を返すと、延滞していたので明日から貸出停止になりますと言われた。はあ、と俺は答えてスマホを見ながら図書館を後にしようとすると、ゲートが開かない。女性の司書に「出口は右側です」と言われ、数秒呆けた後、自分が情けないことをしていることに気がついた。右側のゲートはすんなり俺を外へ通してくれた。

 

次にサークルの部室へ向かう。部室へ行く途中知り合いにあった。板垣くんおつかれ、と言われておう、と返した。なんか険しい顔してるじゃんと言われた。ここ2週間くらいだろうか、会う人に度々そう言われる。俺は気がついたら怖い顔の人間になってしまったらしい。その時何を考えていたのかとかは正直よく覚えていない。

二つの部室に用があった。片方は誰もいなかったので、今まで借りていた漫画を返して、一冊手塚治虫を借りた。プーシキンのオネーギンも借りたものの、家に帰ったら全く同じものを昔古本で買っていた。またいい本があったら借りようと思う。

もう一つのサークルの部屋は二人の部員がいた。一人は一つ上の先輩で、Wiiでマリカをやって空きコマを潰しているようだった。もう一人は何故か部室で英語のプレゼンの課題をやっていた。俺は面白そうな漫画を漁り、ソラニンの上巻とピンポンの1、2巻を発掘した。部室には何故か黒染めのアクティブのレスポールが置いてあった。自分のバンドに黒染めのギターを使いたいとその朝何となく考えていた俺は、それを見ていたく感動し少し試奏した。誰も使う人がいないのなら、勝手に持って帰って改造して、自分のバンドに使おうと思う。

ソラニンの上巻を読んだ。映画の方はあるあるの陳腐なナレーションとキャメラワーク(大学の教授はずっとこんな映画批評をしていた)だと感じ、後半のライブシーンまで結構退屈しながら見てた(後半は本当に最高だったぜ。宮崎あおいにギターを持たせた人は天才だと思うぜ)。だが漫画は浅野特有のコミカルな口調で話が進んでいき、それでも俺らみたいな悩みを思いっきり吐露して、さらに彼独特のコマ割りスタイルを使って、反復したり途切れたり、本当にこの人は天才なのかもしれないと思った。下巻はいつか読もうと思うが、別に読まなくても十分伝わったような気もしている。ソラニンを聞き直したら部室で一人でこっそり泣きそうになっていた。

 

 

ゆるい幸せがだらっと続くのに、続けばいいのに、どうしてそれが終わることをずっと頭の片隅で考え続けなきゃいけないんだろうね。

 

 

部室を後にした俺は金をおろし(先月分の給料が今日振り込まれた、夏のゼミでの出張分の旅費も降りて大満足だ)、最寄りの喫茶店へ行った。数日前にコーヒーアンドシガレッツを見て非常に感動した俺は、コーヒーを飲んでタバコをやらねば耐えることができないと考えていたので、ほぼノータイム直行した。

 

 

結局一人でこれをやるのはあまり素敵なことではなく、部室で発掘した九段理恵とやらの小説を読んだ。これがどうしてなかなか良く、独身片親に育てられたカルチャー系の母親が子供とのすれ違いを深く考えこむという内容で、ちょうど我々世代のグローバル視点とカルチャー的な内向的な価値観が、親子という舞台上ですれ違うという流れだった。最後に「80年台のドリームポップ」が流れるくだりがあり、ロビン・ガスリーという名前が出てきた。ググるコクトー・ツインズのギタリストであり、そんなの誰がわかるんだよと苦笑して店を出て『Ivo』を聞いた。コーヒーは450円だった。

 

絶対に服を買おうと決めていた俺は帰り道にある古着屋に寄った。なんとなく服を見ていると、店員が話しかけてきた。俺より一回りくらい上の、メガネをかけた女性で、物腰柔らかく非常に話しやすい人だった。俺は一人で服を買う時、もう一人の自分が俺に

「何カッコつけてんだよ、お前ダサいのに背伸びしてて見苦しいよ」と後ろ指を立てているような気分になって、どうしても苦しい。だから、誰かが話しかけてくれて一緒に服を考えてくれると、すごく楽になる。自分の好みの服を見つけて、それに合う服を探すのは本当に楽しかった。こんなに楽しかったっけ、久々にすごく笑った気がする。青緑みたいな色のニットと赤っぽいパンツで6500円。なんだか素敵な買い物をした。早くこの服を誰かに見せたいと思った時、俺はすごくすごく胸が苦しくなった。いつもの動悸だ。家に帰ってまた薬を飲もうと思う。